アルファロメオジュリエッタ

クルマ好きであれば誰だって、アルファロメオというブランドには、どこか甘美なものを感じるに違いない。しかも新たに投入されたその主力モデルの車名はジュリエックである。昔を知る人にはもちろん、新しいファンにとっても、このロマンチックな響きは、とても誘惑的なんじゃないかと思う。ジュリエックはアピアランスでも、そんな期待に十分に応えてくれる。伝統の盾をフイーチャーしたフロントマスクは、ひと目見ただけでアルファロメオだとわかる個性が光っている。ハッチバックスタイルのシルエットも、たとえば質実剛健を地で行くようなフォルクスワーゲン≒ゴルフなどと較べると、どこか優雅で艶っぼい。全長4350mmと、やや大柄だということもあるが、それを活かしたスタイリングがあってこそ、これはどの色気が醸し出されているのだ。そうそう、アルフアロメオの流儀でリアドアのノブをピラーに隠しているのも効いているに違いない。これだけで遠目には一瞬5ドアとは見せずに、パーソナル感が強調されるのである。まったく、こういうデザインを見ていると日本車は永遠に敵わないなと溜息が出てしまう。爪の垢を煎じて飲ませたところで、まだ無理だろう。インテリアの造型も、他のクルマとはまったく似ていない。困るのは、カーナビを装着すると、せっかくのデザインが崩れてしまうこと。自分で手に入れたなら、カーナビは無しでガマンすると思う。では肝心な走りはどんな仕上がりなのか。エンジンは1・4リットルターボと1・75リットルターボで、1・4~にはTCTと呼ばれるデュアルクラッチギアボックスが、1・75リットルには6速マニュアルギアボックスが組み合わされる。1・4リットルターボエンジンを積むスプリントノコンペティツィオーネは、実用域からしっかりトルクが出るエンジン特性と、早め早めにシフトアップしていくTCTのマッチングが小気味良い。面白いのはD.N.A.システムで、スイッチによってその頭文字が示すダイナミック、ノーマル、オールウェザーの3モードを選択でき、エンジンやシャシーの特性を変更できる。これをダイナミックに合わせると、普段は23・5㎏mのトルクが25・5キロに跳ね上がり、より力強い加速を楽しめるのだ。惜しいのは、高回転域まで元気に回るタイプではないということだが、実は昔からアルファロメオの心臓は徹底的な低中速重視。これはこれで伝統に則っている。いつでも思いのままの加速が得られる気持ち良さは、それはそれでいいものである。回して楽しむならクワドリフォリオーヴェルデだ。こちらもフラットな特性ではあるが、トップエンドまでスムーズに回り切るし、最高出力は235馬力もある。走らせ甲斐は満点だ。フットワークの味付けも、あまり演出めいたところはなく、しっかり本質を磨いているという印象。前の世代の147辺りでは、ステアリングを切った瞬間にスパッと切れ込むような刺激が追求されていたが、実はそれは高いとは言えないポテンシャルをごまかす意味でもあった。それと比較するとジュリエックは、そこまで鋭さが強調されてはいないが、それでも指一本分の舵角からしっかりとレスポンスが返ってきて、しかも深い舵角に至るまで思った通りに曲げて行ける懐深さがある。それは後輪がいつまでもしっかり接地し続けているおかげでもあり、つまりトータルの地力が大幅に引き上げられているわけだ。美しく、個性の薫るスタイリングに質の高い走り。ジュリエッタには、往年のアルファロメオが帰ってきたような感慨を覚える。実は私白身がそうだったのだが、最初に乗った時にはちょっと刺激が薄いかなっと思ったとしても、時間が経つにつれて、じわじわとその魅力が沁みてくること、請け合いである。ジュリエッタというクルマ、妙に後を引くのだ。あるいは、すでにそれは私かその誘惑にヤラレてしまったということなのかもしれない。


シトロエンDS5

ひさびさにシトロエンらしいシトロエンが帰ってきたと感じている人、きっと多いんじゃないだろうか。シトロエンが上級ラインとして展開するDSシリーズに追加されたDS5は、何しろ外観からして似たものなど無い強烈な個性を放っている。全幅が広く、高さもあるハッチバックボディは、どこかステーションワゴン的にも見えるし、角度によってはクーペ的な軽快感を漂わせもする。しかもフェンダーにはボンネットの長さを強調するクロームのラインが走り、ドアパネルにはいかにも成形に手間のかかりそうな凹面のプレスラインが使われていたりと、全身すごく凝っている。しかも、それらが煩雑に陥ることなく、きれいにまとめられているのが巧い。試しにクルマから少し離れて眺めてみるといい。ディテールが適度にぼやけ、美しい輪郭が浮かび上がってきて「おっ、いいねえ」と改めて感嘆させるのである。デザインだけでなく、それを実現させた生産技術も含めて、シトロエンなかなかやるなと嬉しくなってしまった。そう言いつつ、実は見所はインテリアかもしれないとも思う。下側をフラットな形状としたステアリングホイールの向こうには繊細なデザインのデジタル計器が収まる。天井を見上げれば、広大な面積のガラスサンルーフ。その中央を前後に貫くセンターコンソールにはルームランプやサンシェード開閉のスイッチ類が並ぶ。クルマのような航空機のような、独創的な雰囲気が演出されているのである。しかし居住性や使い勝手は褒められたものではない。全高はあるのに天井がやけに近いし、斜め前方の視界は絶望的だ。側面と後方はカメラ映像で確認できるが、それは目視は難しいということである。後席も頭上や膝まわりの余裕はミニマムだ。では走りはと言えば、それほど個性的ではない。シャシーの基本部分は、車名からC5と共通がと期待したら、実際にはDS4と共通。つまり、油圧式サスペンションではなく、金属バネである。エンジンも、シトロエン車では今やお馴染みのBMW製1・6リットル直噴ターボで、6速ATが組み合わされる。とは言いつつ、DS4とは印象はやはり違って、まず室内が静か。今までシトロエンが好んで使っていたEGSと呼ばれる6速ギアボックスとは違って、6速ATは変速がスムーズで、トルクフルなエンジン特性と相まって、滑らかな走りを楽しめる。乗り心地は、まずまずしなやか。路面の継ぎ目などで時折ゴツンと突き上げることもあるが、速度が上がるほどにゆったり感が出てくる。かと言ってダルなわけではなく、操舵に対する応答性も悪くないから、山道でも退屈することはないだろう。困るのは、むしろ街巾。小回りが全然利かないのだ。最小回転半径は5・7mと大きく、しかも四方の見切りが悪いものだから、狭い路地や車庫入れなどは本当に気を遣う。走りの印象は、やはり濃いとは言えない。大きなネガは特に無いが、このクルマならではという個性が薄いのだ。それ故に、ハイドラクティブサスペンションを使っていたら…と想像してしまうのだが、本当はシトロエン、金属バネでもがっては絶妙な乗り心地のクルマをつくっていたはずだ。古くはZX辺りなんて本当に良かったし、C4ピカソだってそう。そう考えるとハー‘ドではなくソフトの面で、何かが変わってしまったということなのだろうか。見た目にしろ中身にしろ、シトロエンがかつて個性的だったのは、彼らなりに理想を追求した結果、たまたま通る道が他とは違ったからだ。しかしDS5はじめ最近のシトロエンは、敢えて個性を強く演出しようとしているように見える。それでいて。ハイドロ”のような伝統には淡白。そこがどうにも歯がゆいというか物足りなさを覚える。もちろん、過去のイメージにとらわれるのではなく、今の感性で楽しめばいいのだとも思う。しかしブランドというのは、ユーザーとの約束みたいなもの。そこをあんまり軽んじてほしくないなと思ってしまうのだ。


自動車メーカーの開発状況と買取相場

「400万台クラブ」という言葉、覚えているだろうか。これは1990年代初頭に盛んに唱えられた、生産台数が年間400万台に満たない自動車メーカーは、将来生き残ることができないだろうという説だ。当時フォードのCEOたったジャックーナッサーは、21世紀には自動車メーカーは6つにまで淘汰されるはずだと言っていたものである。実際、当時はダイムラーとクライスラーの合併をけじめ、様々なM&A(合併買収)劇が繰り広げられたものだが、その結果どうなったか。大規模合併はことごとく失敗して、世界には相変わらず数多くの自動車メーカーが存在している。日本だけを見ても話は一緒だ。何を根拠に宣うのか、経済の専門家やアナリスト諸氏から多過ぎると言われ続けてきた9社の自動車メーカーが、資本関係の変化、ビジネス内容の変化などはありつつも、今もすべて生き残っているのはご存知の通りである。しかし400万台という数字は荒唐無稽なものではなく、拡大する世界の市場に対応するべく仕向け地向けのモデルを開発し、環境技術、安全技術をアップデートしていきつつ利益を出していくと考えれば、それぐらいの台数が無ければ採算が合わないという計算が、その根拠にはあった。では実際、400万台クラブの代わりに何か起きたのかと言えば、自動車メーカー同士の垣根を越えたアライアンスが一気に進むことだったのだ。

■日欧間でも大きく動き出した新時代提携
最近の大きな話題が、トヨタとBMWの提携である。トヨタはBMWのディーゼルエンジンを得て、代わりにハイブリッドや燃料電池の技術を供与する。更には両社でスポーツカーの共同開発を行なうというのが、その内容。要するに、お互いの不得手とする分野を補い合おうというわけである。また、すでにひとつの会社と言ってもいい日産とルノーは、車体もエンジンも多くの部分で共有化が進行中だ。最近では、そこにダイムラーも乗っかってきて、近い将来にはエンジンだけでなく車体の一部まで融通し合うことになる。日産の海外向け高級車ブランド、インフィニティの新型車はダイムラーの車体とエンジンを使うのだ。更にはここに来て、マツダとフィアットが、まずは次期ロードスターをベースにアルフアースパイダーを産み出すところから協業をスタートさせた。海外メーカーは、こうした合従連衡にあまり抵抗が無いように見える。ダイムラー・クライスラーは破綻したが、クライスラーは何とフィアットに救済された。BMWはPSA(プジョー・シトロエン)とエンジンを共用しているが、そのPSAは欧州危機のあおりを受けて、やはり不振のオペルを抱えるGMと小型車の共同開発にまで踏み込んだ提携を結ぶに至っている。リーマンショックの直後には、何と永遠のライバルかと思われたメルセデスペンツとBMWが部品調達などで手を結ぶなんて話も出た。しかし、これはさすがに立ち消えになってしまった。そう、すべてがうまくいくわけではない。三菱はPSAと交渉していたが、提携には至らなかった。まあ、そのPSAですらGMと接近せざるを得なかったのだから、本当に一寸先のことは解らない。面白いのは、ホンダである。この会社はずっと自主独立。まあ一瞬、ローバーに手を出しはしたが、すぐに諦めて、今はどことも提携関係は結んでいない。今後もそのつもりは無さそうだ。

■「どれを買っても同じ」としか思われなくなつたらクルマは終わる
先に書いた通り、今の自動車メーカーにはやるべき仕事があまりに多過ぎる。エンジンひとつ取っても、日本と北米、中国はガソリンだが、ヨーロッパはディーゼルが主流。排ガス規制も全部異なるから、それらに全部、個別に対応しなければならない。結局のところ、それはもう無理だと世界中の自動車メーカーの利害が一致したことで、こうしたアライアンスが一気に進んだわけである。それは、あくまで自動車メーカーの側の都合でしかない。ユーザー目線では、これがクルマをつまらなくする可能性もある。何しろ心臓が、ハートが、ヨソのものなのだ。かつて自動車メーカーにとっては命たったはずのエンジンが、今では貸し借りされるような部品の一部になってしまった。実際、私はBMW製の今のプジョーーのエンジン、良く出来ているとは思いつつ、何だか味気ないなと感じている。そんなことが、しかし今やごく普通の話なのだ。日本メーカーにも、今後こうした波は今以上に押し寄せてくるだろう。他のページでも書いているが、日産車にダイムラーのエンジンが載るなんて、ほんの数年前には想像もしなかったことが起ころうとしているのである。すべての自動車メーカーに求められるのは、それでもなお、他社には絶対に真似のできない、そのメーカーにしか生み出せない個性をいかにつくり出すかということだ。それができないメーカーは、容易に取り替えの利く存在になってしまうだろう。ここまでグローバル化された時代だからこそ、逆に独自性が何より大事になるのだ。

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